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小学生の4、5年だったか、父と一緒に初めて釣りに行ったのは福井県の三方五湖だった。
夜になって、ホテルの裏の、汽水湖の沖に向かって伸びる桟橋の先から、はぜを狙って2人で1本の竿を出した。父の会社の村田さんに教えてもらって、マンションの下の駐車場で仕掛けを投げる練習をした、確か2.1mとか2.4mほどの短い投げ竿だった。桟橋の先に並んでしゃがんでいる父と自分の姿を、ホテルの部屋の窓から見下ろす今のわたし。そして記憶の中の自分は、その桟橋の先からオレンジ色の光が滲むホテルの窓々を見上げて、父とどれくらいの人が泊まってるんやろなあ、などと話している。
その夜はまったく釣れず、翌朝になって漁港へサビキ釣りをしに行った。そこで釣れたのが柳の葉のように薄い15cmほどのサバと、ころんと太くて丸い頭をした5cmほどのボラの子だった。頭を振って水面をぐいぐい泳ぐ姿が、岸壁からよく見えていた。
いつも小物狙いの父との釣りで、唯一ボラは狙わなくとも時おり大物が釣れたけれど、ただ重いばかりで嬉しい獲物ではなかった。棍棒のような頭と、硬くて大きな半透明のうろこ。当時はただ鈍臭い感じの魚やな、ぐらいにしか思っていなかったけれど、絵に描いてみると案外美しい。胴の太さやうろこの大きさがどこか淡水魚らしく、鯉を思わせる気品がある。そして冒頭の三方五湖でのことを思い出し、今更ながらボラもいいものだ、と思った。